特集
演出統括・高橋勅雄インタビュー
和太鼓奏者が演出統括?『Peace Hack’s』っていったい何?
『Peace Hack’s』というチームをご存知だろうか。聞けば、つい最近立ち上げたばかりのチームらしい。ウェブサイトを見てもよく分からない。
では話を聞いた方が早いと思い、早速インタビューを申し込んだ。宮城の和太鼓グループ「Atoa.」代表であり、『Peace Hack’s』演出統括を務める高橋勅雄氏に話を聞いた。
※高橋勅雄氏のプロフィールはこちら
『Peace Hack’s』、それは歴史と未来を感じる平和プロジェクト
ー まず、『Peace Hack’s』についてお伺いします。
『Peace Hack's』っていったい何ですか?
「2024年の多賀城創建1300年に向けて、多賀城発・東北各地へ向けてのプロジェクトです。
多賀城というのはとても歴史のある場所なんです。今回は多賀城市との共催ということもあり、ぜひそれも世の中に広くアピールしたいと考えています。
ちなみに『Hack’s』というのは、それぞれ
『H=History(歴史)』、『A=Art(芸術)』、『C=Culture(文化)』、『K=Knowledge(知識)』、『S=Save(維持・救う)』の頭文字から取っています。
平和(Peace)が現代をたたき割り(Hack)、未来の平和を守る(Save)、創造の祭典。
これを『Peace Hack’s』と名付け、芸術・文化で平和を実現化していくチーム名として使用していきたいと考えています。」
第一弾『The First』は、なんと
「作品を作り上げる過程」を丸ごと観られるイベントだった!
ー 有難うございます。なんだか壮大ですね。
その第一弾となるのが、11月27日の『The First』と聞いています。
サイトを見てもよく分からないのですが、27日はどのような内容となるのでしょう?
「詳しくは言えませんが、『多賀城』『歴史』『文化』『芸術』を組み合わせたストーリー仕立ての作品です。」
ー 今回は6時間というかなりの長尺です。観客はひとつの作品を、6時間ずっと見続けるのでしょうか?
「いえ、少々違います。一般的には出来上がった舞台をご覧いただくのが『観劇』だと思います。
が、今回はそれだけではなく、作り上げる過程も含めて観客の皆さんに観ていただけます。それが、『Peace Hack’s』の面白いところかなと思います。」
ー だから長時間なんですね。出演者のアーティストの皆さんがああでもない、こうでもないとワイワイ言いながら作り上げるところを見られる機会というのは、なかなか無いですよね。
好きなアーティストがいるなら、普段見れない素の部分を垣間見えるかもしれないと思うとワクワクします。
「ですね。ある意味貴重かと思います。」
舞台『黒塚』
「6時間ずっと座っているのは、地獄に近いかもしれませんね...(笑)
そこで、観客の皆様にも、パーツの一部を一緒に作成していただくなど、
ご参加をお願いするようなことを考えています。」
実はあなたも参加できちゃう!かも?
ー ここで、ちょっと意地悪な質問をさせてください。観客側の目線ですが、ずっと見ているだけですと退屈なのでは?と邪推してしまいます。中には、途中で帰られる方もいらっしゃるのでは。
「確かに、6時間じっと座っているのは地獄に近いかもしれませんね...(笑)。
そこで、観客の皆様にも何かしらの形でご参加をお願いするような仕組みを考えています。
詳しくは言えませんが、例えば会場で使用するパーツの一部を一緒に作成いただくとか。
または会場の皆さんへ、私から唐突に質問を無茶振りするかもしれません(笑)。
最後のアフタートークでも、会場の方の声を直接お聞きしてみたいと思っています。
観客の皆様も含め、全員で作品を創り、育て、広めていく。
これを『Peace Hack’s』で体感いただけるように進めていくつもりです。」
ー 観客も何かしらの形で参加することができるのですね。
何か準備が必要なのでしょうか?
「いえ、準備は何もいりません。安心して手ぶらでお越しください(笑)。
あと、入場についても、途中入場可能、そして何度でも入退場自由にしようかと考えています。
たとえば、観光したければ途中だけ抜けて観光しても良し。
また、シンガーソングライターの上北健くんは全般的に歌を歌ってくれる予定ですが、それが聴きたければずっと会場にいてくださっても良し。
遠方からお越しの方もいらっしゃると思うので、途中退場も良し。
あるいは、出来上がったプログラム披露のお時間をねらってご覧いただく形でも、一向にかまいません。」
ー なるほど。途中入場可能、何度でも入退場自由というのは、来場者側からすると柔軟性があって有難いですね。
「ですが、私が演出を行うところや、熱い気持ちがしっかりと作品に乗っているかを、ぜひ皆様ご自身の目で確かめていただきたいところではありますね...(笑)。
長い製作時間を共にした出演者の、『やってやろう!』という気持ちが重なり、思いが乗った舞台は、さらに舞台を面白くすることと思います。」
ポスターもみずからデザイン!
その意味は、まさに
『Peace Hack’s』の目指すところにあった
ー ポスターについて教えてください。
とても綺麗なデザインが印象的ですが、あれはどなたが考えられたのですか?
「ポスター原案は、私が得意とする鉛筆でラフデザインをしました(笑)。
そこから弟の亮が私のイメージを受け、パソコンやアプリなどを駆使して仕上げ、形にしてくれました。
あとは、毎回やっていますが、二人で【センスがあるのはどっちだ大会】を開催して、試行錯誤を繰り返しつつ修正を重ね、決めています(笑)。」
ー ポスターのデザイン原案までご自分達でされているのですね!
あのデザインの意味についても教えてください。
「まずは、なるべく普段のAtoa.らしくないデザインを目指しました。和に限定したくなかったんです。
次に、ポスター中の人物は私の好きな彫刻作品なのですが、身体が半分男性で半分女性なんです。
この世界観が好きで。
世の中って、どちらが正しくてどちらが悪い、とか。白黒はっきりつけなきゃいけない、とか。そういうことが多いですよね。
私自身も、普段結論を求めてしまいがちなところもあります。
そうではなく、どちらでもあり、白も黒も両方あってもいいんじゃないか、という。
まさに『Peace Hack’s』の目指すところを表しているなと思って取り入れました。」
ー 白も黒も両方あってもいい、と。
この考え方が『Peace Hack’s』の根底にあり、それをそのまま表現されたのですね。
「はい。また今回の作品では、花が重要な意味を持つアイテムとして登場します。その花を表したくて、ポスターで表現しました。」
ー 重要な意味、ですか。それも気になりますが、公演当日までのお楽しみとしておきます。
「花といえば、公演で使用した藍の種を多賀城に蒔くことも考えています。
やがてそれが芽吹き、育った藍を利用して、将来的には衣装を染める染料になります。
そうやって染めた藍染の衣装で、2024年の多賀城創建1300年の記念日を迎えられれば最高ですね。」
「仙台神楽」は、故郷への熱い想いから作られた
ー 折角ですので、「仙台神楽」についてもお伺いしたいと思います。
10月の『ふるさと四季の宴』で、「仙台神楽」というものを初披露されていましたね。
「はい。仙台という地名は、元は『千代』であったと言われています。(※諸説あり)
それを伊達政宗公が、漢詩になぞらえ『神々の住まう処』=『仙臺(仙台)』と名を変え、現代に至ります。
伊達政宗公は、ネーミングセンスだけでなく、その人生や、戦に使用する甲冑、道具の数々、築城や色使いなど、さまざまな面で突出したセンスのある人物だな、と感じます。
ただ折角の素敵な地名なのに、仙台を見てみると、私が調べた範囲ではそれに関連する神楽が見当たりませんでした。
それならば、コロナウィルスが蔓延したこの時代だからこそ、想いを密にして寄せ合い、時代を跨ぐさまざまなメンバーでひとつの神楽を作ろう、というのが今回の『仙台神楽』の背景です。
感謝、鎮魂、疫病退散など、この地の神々へ祈りが届くように想いを込めて舞いました。
私は衣装デザインや製作を中心に担い、振付は、神楽舞を得意とする亮が中心に担当しています。
今後は神社奉納のみでなく、さまざまな機会で皆様に披露していきたい、広めて行きたいと思っています。」
ー 衣装製作までされているとは驚きました。
今回の『Peace Hack’s』でも仙台神楽を披露されるのでしょうか?
「はい。披露していきたいと考えています。
どのような形で、というのはご容赦ください(笑)。」
『Peace Hack’s』
高橋氏の見据える今後の展望とは
ー 『Peace Hack’s』の名前の通り、今回出来上がったものを、東北各地で今後披露されていく予定と伺いました。
「はい。いったんは2024年の多賀城創建1300年に向けて、今後は東北のあちらこちらで披露していきたいと考えています。」
ー 高橋さんは、どのような方に観ていただきたいですか?
「まず『The First』は、何といっても地元の多賀城の皆様に観ていただきたいですね。
それから、今回は学生の皆さんも多数参加されます。これからの未来を担う若い方達にもぜひ観ていただきたいと考えています。
もちろん、舞台や演出に興味がある方も大歓迎です。
今後は少しずつ芸術や文化で平和を広げ、観客の皆様にとって何かしらの考えるきっかけになれれば本望です。」
ー 「人から人へ」、「いにしえから未来へ」感動を伝えるというAtoa.の理念そのままですね。
「はい。今回、有難いことに演出統括という大役を担うことになりましたが、私自身、和太鼓奏者という出演者でもあります。日本の文化を未来へ向けてつなげていく、感動をつなげていくということは私のライフワークであり、願いでもあると考えています。」
「多賀城創建にあたり、私のアイデアを具現化したものが『Peace Hack’s』です。
私の抽象的な考えを上北健くんが驚くほどよく汲み取ってくれ、とても素敵なストーリーに仕立ててくれました。
また宮城県出身のシンガーソングライターである熊谷育美さんも、快く出演を引き受けてくださいました。彼女の出演により、それぞれ異なるタイプのシンガーが揃ったことで、よりストーリーが引き立つと思っています。
そして、『学生』という、若いパワーが身体中に満ち溢れている子供たちが、よりストーリーに現実味を与えてくれるように、私も一緒に時間を過ごさせてもらいながら舞台を構成しています。
それは、本当に幸せなことで貴重な時間だなあと感じているところです。
みな本当に心強い仲間です。」
ー 最後にひとこと、この記事をご覧の皆様にメッセージをお願いします。
「これから『Peace Hack’s』はどんどん進化していきます。
今回はそれが出来上がるまでの様子をぜひお楽しみください。参加希望アーティストの皆さんからのご連絡も歓迎しています!
まずは27日、多賀城でお待ちしております。当日はくれぐれも暖かい服装でお越しください!」
あとがき
インタビューを通して感じたことがある。
それは、高橋氏自身が非常に優れたリーダーの資質の持ち主であるということだ。
まず、先を見据えた明確な目的意識を持っており、それを言葉でアウトプットするのが上手い。
次に、質問への回答が早く、聞き手の意図を外さない。つまり判断力・推察力が高いことを示している。
さらには、複数のイベントをマルチタスクでこなすプロジェクトマネジメント力。(取材の時点ではまだ明かせない公演予定も、数多く控えているとのこと)
そして今回の『Peace Hack’s』で見てとれる、多様さを受け入れる柔軟性。
最後に、メンバーを信頼し、任せるところは徹底的に任せるところ。そのようなリーダーの元だと、メンバーはきっと安心して業務を遂行することができるのだろう。
常に感謝を忘れないその人柄に惹かれ、周囲に自然と人が集まってくるのもよく頷ける。
平和というのは、案外こういうところから少しずつ広まっていくものなのかもしれないな、そんなことを思わせる人物だった。
あまり知られてはいないが、氏は演出家としても数々の舞台を成功させている、実は多才なマルチアーティストである。和太鼓奏者であり、作曲家でもあり、デザイナーでもあり、演出家。
故郷への想いを胸にひたすら表現してきた姿は、真っすぐで潔い。
そのまなざしはどこかあたたかく、その表現は観る者の心をじんわりと熱くする。
そんな魅力的なリーダーである高橋氏が率いる『Peace Hack’s』。もはやAtoa.の枠に収まらず、さまざまなアーティストが集うチームとなった。これからの進化が実に楽しみである。
(2021年10月)
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※会場が下記へ変更になっております。
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